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千葉地方裁判所 平成6年(ワ)1983号 判決

甲事件原告・乙事件被告(以下「原告」という)

進藤博

右訴訟代理人弁護士

黒川厚雄

甲事件被告・乙事件原告(以下「被告」という)

秋山光男こと

宋春東

右訴訟代理人弁護士

仲田信範

主文

一  甲事件

被告は原告に対し、別紙物件目録一及び二記載の建物を明渡し、かつ平成五年八月二一日から右明渡し済みまで一ヵ月あたり金一一万円の割合による金員を支払え。

二  乙事件

被告の原告に対する請求を棄却する。

三  訴訟費用は甲、乙事件を通じ被告の負担とする。

四  この判決一項は仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

(甲事件)

一  請求の趣旨

主文一項同旨

二  請求の趣旨に対する答弁。

原告の請求を棄却する。

(乙事件)

原告は被告に対し、金七〇三万六五一八円及び内金六六三万六五一八円に対する平成四年一月一日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  当事者の主張

(甲事件)

一  請求の原因

1 原告は被告に対し、原告所有の別紙物件目録一及び二記載の建物(以下「建物一」、「建物二」という)を次の各約定に基づき貸し渡した(以下「本件賃貸借」と総称する)。

建物一

契約日   平成元年七月二一日

使用目的  事務所

期間    二年間

賃料    一ヵ月金六万円

支払い方法 毎月末日限り翌月分を前払い

賃料の支払いを二ヵ月以上怠ったときは催告を要せず、直ちに賃貸借契約を解除することができる。

建物二

契約日   平成二年六月ころ

使用目的  住居

期間    二年間

賃料    一ヵ月金五万円

支払い方法 建物一と同じ

2 被告は平成五年五月分以降の賃料の支払いを怠り、同年一二月一五日に至り金四〇万円を支払ったが、これを遅滞賃料に充当しても同年八月二一日分以降の賃料は未払いの状態にある。

3 原告は、平成六年九月九日到達の書面により、同書面到達後一〇日以内に遅滞賃料合計金一四七万円(平成五年八月二一日から平成六年九月分まで)を支払うべきこと、右期限内の支払いがないときは本件賃貸借を解除するとの通知をした。

4 平成六年九月二〇日が経過した。

よって、原告は被告に対し、本件賃貸借の解除に基づき建物一及び二の明渡し、平成五年八月二一日から平成六年九月二〇日までの未払い賃料並びに同月二一日以降右明渡し済みに至るまで一ヵ月あたり金一一万円の割合による賃料相当損害金の支払いを求める。

二  請求の原因に対する答弁

請求の原因はすべて認める。ただし、解除の効力は否認する。

三  抗弁(相殺)

1 原告は平成三年七月二二日、訴外坂井康一に対して次のとおりの内容で金員を貸し渡した(以下「坂井貸金」という)

元金  金五〇〇万円

弁済期 平成三年一〇月二二日

利息  毎月金三〇万円(月六分、年七割二分)

2 被告は坂井貸金の返済について原告に対し連帯して保証した。

3 被告は原告に対し、坂井貸金について次のとおり支払いをした。

平成三年九月一〇日 金三〇万円

平成四年三月一一日 金一八〇万円

平成四年八月二七日 金三〇万円

平成四年一一月一八日金六五〇万円

平成五年一二月六日 金四〇万円

合計 金九三〇万円

右の他、訴外坂井は坂井貸金について金三六〇万円の支払いをしている。

4 右支払金を利息制限法の制限利息一ヵ月金六万二五〇〇円の範囲を超える分を元本へ充当すれば、被告支払分のみで平成四年一一月一八日の支払により、金三〇三万六五一八円の過払いとなり、その後の支払を合わせると金三四三万六五一八円が過払いとなる。

5 被告は平成六年一〇月三日到達の書面により、被告の原告に対する右過払い金の不当利得返還請求権を自働債権とし、本件賃貸借の延滞賃料を受働債権とする相殺の意思表示をした。

四  抗弁に対する答弁

1 抗弁1の事実中貸金の存在は認める。ただし、貸付けは平成三年六月一一日ころであり、元本は金一〇〇〇万円、弁済期平成三年九月一〇日ころ、利息・損害金月三分である。

2 同2の事実は認める。

3 同3の事実中、各支払の事実は認める。ただし、平成四年三月一一日の支払をしたのは主債務者の訴外坂井であり、同年八月二七日と同年一一月一八日の支払をしたのは訴外大同物産株式会社である。

4 同4は否認する。

(乙事件)

一  請求の原因

甲事件抗弁1ないし4と同じ。

二  請求の原因に対する答弁

甲事件抗弁に対する答弁1ないし4と同じ。

第三  証拠

証拠の関係は本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるからこれを引用する。

理由

一  甲事件について

1  請求の原因については当事者間に争いはない。

2  抗弁について

(一)  被告の主張する相殺の抗弁は、平成六年一〇月三日の意思表示によるものであり、本件賃貸借は請求の原因によると平成六年九月二〇日に解除されているのであるから、本件賃貸借について原告の解除権の発生を妨げる理由とはならない。そこで以下は、相殺の意思表示により本件賃貸借解除後の未払賃料債務が存在するかについて判断する。

(二)  抗弁事実1については、訴外坂井への貸付は平成三年六月一一日ころ、元金一〇〇〇万円、利息月三分であったと認められる(甲四、乙五)。

同2の事実については当事者間に争いがない。

同3の事実については、坂井貸金に対して被告主張の支払があったことは当事者間に争いがないが、右支払中平成三年九月一〇日支払金三〇万円は訴外坂井の支払(乙一)、平成四年八月二七日支払金三〇万円及び同年一一月一八日支払金六五〇万円は訴外大同物産の支払(乙三、五)と認められる。

同4について、右認定のとおり坂井貸金は元本が金一〇〇〇万円であり、被告主張の支払額のうち被告が支払ったと思われるのは合計金二二〇万円である(乙二、四)が、右の内金一八〇万円について被告自身の出捐によるものか、被告が訴外坂井から預かった金を支払ったのかは明らかでなく、平成五年一二月一六日の金四〇万円は本件賃貸借の延滞賃料の一部として支払われた金員と認められる(原告本人)。そうすると、そもそも坂井貸金の弁済について支払超過の状態が生じているか自体が未だ明らかでなく、仮に支払超過があるとしてもそれが、被告との関係で原告の不当利得が発生しているかについてはこれを認めるに足りる証拠がないといわなければならない。

以上によると、被告の相殺の抗弁は認めることができない。

二  乙事件について

右認定のとおり、坂井貸金について被告が原告に対して過剰な支払をしたと認めるに足りる証拠はないから、被告の乙事件の請求は理由がない。

三  結論

右によると、原告の請求は理由があるからこれを認容し、被告の乙事件の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を、仮執行宣言につき同法一九六条一項を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 鎌田豊彦)

別紙〈省略〉

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